読み物ユリは小学4年生
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私はユリ、小学校4年生だ。
体が小さいから前ならえは
いつも腰に手を当てている。
今年も変わらない。
近所のおばちゃん達は私をチビユリちゃんと呼ぶ。
私より年下の幼稚園のいとこから
お下がりをもらった。
110センチの服でもギリギリ入る。複雑という感情を知った。
今日は水泳の授業である。
苦手だ。
泳いでいるつもりだが
側から見ると溺れているらしい。
そんなことはどうでもいい。
一夏の我慢だ。
冷たい水は体の冷えによくないので
浅く太陽に照らされた
温泉エリアに浸かっている。
カピバラじゃないんだから
泳ぎなさいと言われる。
いっそのことカピバラでいいから
そっとしておいて欲しいのが本音だが
教師には伝わらない。
スクール水着は今年もサイズは変わらない。
家計に優しい子供だと自覚している。
体が小さいと着替えも素早い。
チビユリも時には役に立つものだ。
タオルを巻いて体操座りで
教室に整列して待つのだが
身長順が全ての小学校の世界ではもちろん私は1番前だ。
テンション上がっている同級生を横目に
タオルにくるまって
柔軟剤の香りを存分に楽しむ。
誰にも邪魔されたくないし
余計なことで先生に怒られるのはごめんだから
大人しくこの時間を楽しむ。
「くらえー!!俺の10まんボルト!!!」
周りで男子が騒いでいる。
そんなことできるわけなかろう。
と思いながら
静かに待っている私は
優等生かもしれない。
「おっと!!」
できるはずのない10万ボルトを交わした
男子の体が私を押し倒す。
石のように丸まった小さな私は
いとも簡単に廊下に放り出される。
ゴロンゴロンゴロン。
ダルマ状態で廊下に転がってしまった。
タオルが絡まり身動きが取れない。
何と言うことだ。最悪だ。
キーンコンカンコーン
虚しく鳴り響く鐘の音。
見えるのは学校の廊下の天井
感じるのは恐ろしく冷たい床。
ポケモンごっこ続けずに助けてくれよ。
ゾロゾロ。
移動教室の上級生が出てきた。
「えー!!!何やってんの!!面白い」
「小さい!!可愛いね」
子猫を拾うような視線を向けられる齢十
恥ずかしいからやめて欲しい。
何と読むか分からないがおそらく羞恥とはこのことだろう。
早く誰か助けてくれないか。
私は大人しくお利口さんにしていただけなのに。
担任の先生が来た。
「ユリ、どうしたんだ。
面白いぞ。石ころごっこは終わりだぞ」
「石ころユリちゃん面白いね〜」
「今度昼休みお姉さん達と遊ぼうね〜」
違うんだ!!!
私は被害者だ!!!
誰かわかってくれないか。
だけどちょっと嬉しい。
お友達ができた。